今日の松っちゃんは 目 つむっていた 耳もとで「寺ちゃんだよ きたよ～」と言ったら パチッと開いた が 目と目が 合わない 知らない人の目だった 24時間 知らないところで 一人で 知らない ナースさんたちに いろんなことされている どんなに 辛いのか どれほど 心細いのか 松っちゃんは 普通の人なら とっくに 壊れているのに 壊れていないフリしているのかな それ 思うと なぜ こんな ことしてまで 苦しむこと 繰り返して ごめんなさいと謝った いくら 妻でも こんなに 苦しめるのは 残酷だ。
看護師長に話をした 点滴の右腕が そこの場所から 出血した ので 点滴を中止した そして 左の腕に 点滴用の血管を 探して そこに 替える しばらく 点滴が停止した 今は 左側の腕が 点滴用として 今 投与中 お薬は 抗生薬二種類 維持溶液 インシュリンなど 投与スピードが 若干 早くしてある 看護師が 声かけすると チャンと 目 開けて 応答するので 心配ないですよとのこと
両足が 赤く 腫れて 「褥瘡」(ジョクソウ)が できた 専門家が きた 普通の看護師の手に 負えないほど ひどく なっていた 松っちゃん ごめんな
別の若い 看護師が オシッコの回収に 入室したので「ご主人が 見えましたよ おきて ください」って 言って下さいとお願いした 少し 大きな 声で耳元で 言ってもらったところ 聞こえたのか 目 開けて こっち 見た ニッコリ微笑んでくれた 松っちゃん いつもの 松っちやんの目 口元を スマイル顔にして 挨拶してくれた これも 松っちゃんなら さっきのも松っちゃん 少しづつ良くなっていくけれど また 少しづつ 壊れて いきつつあるような気がする
いるあいだに 痰の吸引 二回した とっても 苦しむ 見て いられないほど 苦しむ 痰を 吸引しないと 窒息して 死んでしまう だから 痰を吸引する しかし 俺が やっているのは 妻を 死ぬほど 苦しめているのだ くちの中も 吸引した 一杯 粘液が 溜まっていた 何回も 何回も 吸引した スポンジに 水 含ませて 何回も きれいにした やっていても 悲しみが そして 涙が こみあげてきた もう やってられない と 逃げ出したい
寺ちやんは 逃げられても 松っちゃんは 逃げることも 何も できないからだになってしまった もう 二人とも この現実から 逃げられない
松っちやんの個室 ベッドに 寝ている ず～と寝ている いつまでも 寝ている そう なって しまった テレビは つけて あげても 見ない 科捜研の女 見てと イヤフォン して あげても 首 振って 外してしまう
